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[尾田栄一郎 対談] 真弓さんは「東京の母」 [2007/07/27 10th TREASURES]


ワンピース10周年の記念本「ONE PIECE 10th TREASURES」



この雑誌に掲載された、尾田先生とルフィの声優田中真弓さんの対談をまとめ。


──ルフィを見た、最初の印象はどうでした?


田中:私、ルフィ役をやるまで「ONE PIECE」を全く知らなかったから、タイトル聞いて「珍しく少女漫画の仕事が来た!」って(笑)

尾田:少年漫画のキャラをやることが多いですよね、真弓さんは。で、ルフィの印象は?

田中:それがね…ごめんなさい、最初に息子にジャンプ見せられたとき「ヘンな絵!」って思っちゃって…

尾田:あはは(笑)。いや、でもそれは最初によく言われました。大きい眼の絵が流行っている時に、僕は点の眼を描いていましたからね。読者も見慣れなかったのかも。

田中:私もそういう印象かな。息子に「これ一番人気だよ」って言われて、絵を見た時の第一声が「ホントに?」だったの。で、役が決まってから、改めてちゃんと単行本を読んだけど…いやー、泣きましたよ。電車の中で泣いちゃったもん、「絵がヘンでも大丈夫!」って(笑)

尾田:やっぱりヘンなんだ(笑)。僕は読切りの頃から、ルフィの声は真弓さんだと思って描いてましたけど。

田中:ウッソだぁ~~!!

尾田:ホントですって!新人の頃って、普通は生き残れるかどうかで悩むんですけど、僕は声優どうしよう…って悩んでました(笑)。で、武井さんとかに相談したりして。それで出た答えが真弓さんだった。

田中:それは初めて聞いたなー。


──お二人が初めて会った時の印象は?


尾田:僕が24・25歳ぐらいでしたね。

田中:そうそう。もう、息子とあんまり変わんないなって思った。「肉ばっかり食べないで野菜もちゃんと食べるのよ」みたいな心境で(笑)。ルフィと同じで、「肉、肉」ばっかり言ってたから、尾田っちは。

尾田:真弓さんは「東京の母」ですね(笑)。でも、最近は魚もおいしいと思うようになりましたよ。

田中:新しい漫画をアニメにするときに、主人公が私でいいのかな、と思ったの。ジャンプで言ったら「ドラゴンボール」のクリリンなわけじゃないですか。そのイメージが強いでしょ?

尾田:それは、毎回聞いていれば変わってくるから。僕は逆に、真弓さんが嫌がってるんじゃないかと…少年の声をやりたがってない、って聞いてたから。

田中:女もやっていて少年もやる女優もいるけど、私は少年オンリーだから…20~30代まではよかったけど、40~50代となってきて、何か嫌だったの。でも、本当にやりたくなかったら、オーディションには行かないわよ。

尾田:僕もそうだと信じてました。嫌ならその時点で断ってくれるんじゃないかって。でも現場としては、仕事場の空気を作る「座長」が必要だって意識があるらしく、田中真弓でいこうという話になった。

田中:他に座長になれる人がいれば、ルフィは私じゃなかったかもしれないと。そしたら他のメンバーも違うメンツだっったかもね。何か、運命的なものを感じます。

尾田:そうですね。僕はただ、クリリンとかパズーの声の人がいいって、ファン的に言ってただけなんです。現場に対しては別に…自分の作品が初めてアニメ化するわけだし、僕は何の経験もないから、プロの意見を聞こうと。

田中:「おれの原作があってこそだろ」っていう原作者も多い中で、偉いよね。

尾田:言ったら責任が生まれるじゃないですか。最後まで責任取れるわけじゃないし。最初から遊んで下さいよって渡しちゃった方が簡単ですよ。スタジオ内の雰囲気まで計算しているなんて、プロの仕事だな…って感心してます。そこまで考えてるんだから、いい雰囲気ができて当然なんですよね。それは第一話を観て感じました。いい人達に出会えたな、って思ってます。


──先生は、田中さんに何か聞きたいことがあるとか?


尾田:そうそう。前に、真弓さんの演技論を聞かせてもらったじゃないですか。

田中:…なんだっけ?(笑)

尾田:ほら、若い人の泣く演技が、どうしても泣いてるように見えなかったっていう…あの話を改めて聞きたい。

田中:ああ、思い出した。泣くシーンを演じる時って、泣こう泣こうと思って泣く人が多いんですよ。でもそうじゃなくて、本当に泣く時って「泣いちゃダメだ」って思うはずなんです。涙がこぼれるギリギリまで、多分笑ってる。涙がこぼれて、恥ずかしいと思った瞬間にまた笑う。泣く前後に笑うんです。演技の方向が違うんですよ。

尾田:演技の方向が違う!いい言葉ですねえ。

田中:大人が人前で泣いたり怒ったりするのって、恥ずかしいでしょ。隠すために笑うはずなんです。若手の教育をするとき、そういう演技の方向に関して、もっと厳しい目で育てなきゃいけない、って言ったことがあります。

尾田:それを聞いて僕は凄く感動したんです。と同時に、僕の中で理屈が通った。見ただけでもらい泣きしそうな泣き顔と、ただ水が流れてる泣き顔では全然違うじゃないですか。漫画だって演技なんですよ。

田中:うんうん、そうだよね。

尾田:師匠の徳弘正也先生なんて、「何でこんな顔が描けるの!?」みたいな、凄い泣き顔を描くんですよ。僕も練習して、ちゃんとキャラクターの気持ちになればいいってことは気づいた。でも…この辺にシワができるのはわかる、描けるけど、そのシワがどういう感情から生まれるか、っていうことは分からなかった。それが真弓さんの話を聞いて、「ああ、こういうことだったんだ!」と。

田中:女もそうだけど、男が泣くときは前後に相当な葛藤があるはずだよね。

尾田:そうですね。だから僕は、泣かせたいから涙を流した絵を描く、みたいな幼稚なことは絶対したくない。それって全然気持ち入れてないし、感情を理解してないってことだから。だから、僕がまず泣けないと、キャラクターには絶対に涙を流させません。それはポリシーの一つですね。

田中:みんないい顔で泣くよね、「ONE PIECE」は。

尾田:鼻水も女子だって出るしね。ちゃんと描かないと伝わらないですよ。「ONE PIECE」っていうファンタジーの世界で、どこかにリアリティを求めるとすれば、やっぱり人間の感情だと思ってるんで。そこはしっかり守っていかないと、全部嘘っぱちになる。

田中:逆に、悪いやつほどカッコイイじゃないですか。エネルなんてずっと強くてカッコ良かった!だからこそ…あの顔、嬉しかったよね(笑)

尾田:あのシーンだけを目指して、クールなエネルを描き続けましたからね。ああいうのを描いた週は、反応が楽しみでしょうがない。

田中:またエネル役の森川くんがいい声なんだ。はっちゃんと同じ声とは思えない(笑)

尾田:表情は僕のこだわりだから。表情っていうのはつまり、キャラクターの演技ですよね。だからルフィの真弓さんが、演技論を熱く語ったくれるのはすごく嬉しいんです。経験があるぶん、説得力もあるしね。

田中:喜劇役者だからね。駅で駆け込み乗車に失敗したときに「別に乗りたくなかった」みたいな顔をしたり、道端で転んだら「別に痛くないよ」みたいな顔するでしょう。そういう日常の演技を表現するのが喜劇の基本なんです。

尾田:でもそういう喜劇とかの演技と、本当のリアルな感情は直接同じではないですよね?

田中:それは、演出家のサジ加減という問題でもあるよね。はっきり内面を伝えたい人もいるし、伝えたくない人もいる。そのキャラが怒った時には、「僕は怒ってるんです」っていうセリフを入れられたとしても、もう役者は演出家のコマでしかないから。

尾田:セリフで説明するんじゃなくて、周りの人の演技でそのキャラクターの内面を分からせる、っていうのも重要ですよね。

田中:そっちのほうが、演出としては高度よね。いい作家はセリフで説明しないのよ。聴いてるお客さんの心に沁みないから。

尾田:少年漫画も、行動で見せろっていうのは同じですね。セリフでの説明は子供が理解しにくいし、それだったら小説を読めってことになりますから、絵と動きでちゃんと表現して分からせなきゃいけない。

田中:さっきの、ワーッて涙を流すだけじゃ全然悲しくないっていう話と同じ事だと思うよ。言葉で説明されても感情がついてこない。

尾田:作家としても、説明なんかしたくないんです。回りくどいし、カッコ悪いっていう意識があるんだけど、伝わらなきゃ意味がない。作家的なこだわりを捨ててでも、伝えなきゃならないシーンはいっぱいあるんですよ。

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──田中さんは「ONE PIECE」のどういう部分が好きですか?


田中:私はおばさんだからドラマが見たい(笑)。この漫画の凄いところは、子どもと一緒にお母さんがついてきてることで、それはやっぱりドラマのせいでしょう。

尾田:ドラマのあるバトルを精一杯やってますからね。少年漫画って、ホントは「強くなりたい」とか「強いヤツと戦いたい」っていうだけで成立するんです。なのに何でドラマを重視したかというと、「ドラゴンボール」があったから。普通にバトル漫画を描いたら絶対に比較されて、僕が潰れると思った。だって自分が夢中だったんだから。そこを避けないと、生き残れないのは困りますからね。

田中:いいよね、ドラマ。以前、勝平ちゃんに、メリー号との別れの回を読まされて泣いちゃってねー。その回の収録前だったから「何で読ませたんだー!」って怒ったけど(笑)

尾田:本当にうまくいってよかったです。あれは「ONE PIECE」にとっても、すごいファンタジーなんですよ。「船がしゃべるわけがない」って言われたら終わり。一生懸命テンション上げて、必死にやるだけやって、結果を待ちましたよ。一応僕は泣いたけど、世間がどれだけこの船に思い入れを持ってくれているのかが、分からなかったから。読者からすごい反響が来て、逆にビックリしましたよ。

田中:その前にルフィとウソップのぶつかり合いがあったから、余計にね。

尾田:あれは描いてて気持ちよかった。あの2人はあれだけ普段から言いたいことを言い合っているのに、まだぶつけることがあるっていう。ものすごいテンションで描きましたね、あれは。セリフがスラスラ出てきた。

田中:ウソップってほんと素敵なキャラですよね。

尾田:読者との距離を取り持っているキャラですからね。ほかはみんな超人だから、ウソップが偉そうにすればするほど、読者も偉そうにできるんですよ。

田中:ルフィ達がどこか行っちゃって、残ったナミと2人でお互い「頼りねェ~」って言う、あれが面白い。最初の頃からずっとやってるもんね。

尾田:チーム内での位置取りを変えてしまうと、バランスが悪くなるんですよね。これから誰が入ってきても、ウソップは一番弱くあって欲しいし、いつまでたってもチョッパーはウソップの嘘に騙されてて欲しい。キープして欲しいダメなところっていうのは明確です。


──お互いに対する要望などはありますか?


尾田:いつも言っているんですけど、「真弓さんはルフィだな」って思う瞬間がすごいあるんですよね。人への接し方とか、差別のなさとか、そういう部分。いい人に主役をやってもらったなって、普段からすごく思っているから…もう、そのままの真弓さんでいてください。

田中:それは何回か聞いたね。ホントにそう思って言ってる?(笑)

尾田:本当です。イタズラ好きのところも全部含めて(笑)。でもそのイタズラだって、結局だました相手が喜ぶことを考えていますよね。

田中:言っちゃいけないことを言っちゃうときもあるけどね。「ペラペラの実」を食べたから(笑)

尾田:もう今までどおり、メチャクチャでいいです。


──田中さんからは何かありますか?


田中:さっきも言ったけど、少年がバトルが好きなのは分かった上で、やっぱりルフィたちにはドラマを演じさせたい。ドラマがあると、オトンやオカンがついてくるじゃないですか。私も色んなアニメに出てるけど、これって凄いことですよね。

尾田:あのね、僕には新しい野望があるんですよ。長く続いちゃったから、開き直ってこその野望なんですけど、今までの長寿漫画とは違った親の接し方を見たいんです。今までは、親が子供の頃に読んでて、子供が生まれて、子どもと一緒に懐かしんでまた観る。でも、親が卒業しちゃう時期があるじゃないですか。そのブランクを無しにできないかと。親がずーっと読み続けて、子供ができたら一緒に読む…っていう。

田中:親と子がずっと読者っていうこと?

尾田:そうです。親と子が、途切れることなくファン同士。

田中:それってもう実現してるんじゃないの(笑)?私の息子が今20歳だけど、彼が小さい頃から続いてるわけだし。たとえばチョッパー編のときに、息子はヒルルクの「いい人生だった!!」っていうセリフが一番いいって言うのね。でも、私は違う所で反応するんです。私は母親だから、くれはの「行っといで、バカ息子」にグッと来るんですよ。

尾田:そうなんです。絶対違うんです、それは。だから子供が好きなものと、大人が好きなものをバランスよく描いていかないと。もちろん、少年誌だから子供がメインですけどね。

田中:連載が始まった頃に中学生だった子なら、そろそろ結婚するぐらいの年齢じゃない?

尾田:そうですね。今の読者がそれぞれの家庭を持って、その子が「ONE PIECE」を読む歳になるまで頑張ります。

田中:私は尾田っちが伝えたいことを、画面を通して伝えるよ。


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