10周年という事で、週刊プレーボーイに掲載された尾田先生のインタビューをまとめ。
──10周年おめでとうございます!
そもそも1997年7月に「ワンピース」を始める時、どんな漫画を描きたいという理想をお持ちだったんですか?
この島には何があるんだろうってワクワク、それが描きたくてしょうがなかったんです。
それを描くために、グランドラインという海域の設定を考えました。
グランドラインは、子供の頃にイメージしていた冒険漫画そのものの世界で、僕にとっての理想なんです。
何が起こっても不思議じゃなくて、でっかいクジラだとか巨人だとかいろんな生物や人がいて、天候だってぐちゃぐちゃで、季節もめちゃくちゃでいい。
「グランドラインでは何でもありだ」と漫画の中で一本筋の通った理屈をつけているから、僕は何を描いてもいいわけですよ。
たとえば、インドみたいな国を描きたいと思ったら、次の島で描いちゃえばいい(笑)。
スポーツ漫画が描きたいなって急に思っても、「スポーツ島」みたいなのを作ればいいんです。
だから、新しい連載をしたいとか全く思わないんです
──グランドラインは、漫画家の立場からしても理想の世界なんですね。
「ワンピース」は、仲間が死なないこと、敵を殺さないことも特徴的です。
言い換えれば「人は生き返らない」。
他の漫画のように「人は生き返る」世界観を採用しなかった理由はなんですか?
だって不自然じゃないですか、人が生き返るのは(笑)。
僕は、こてこてのファンタジーは好きじゃないんですよ。
だから話の中で細かく色んなことに理屈をつけたいんですけど、死んだ人が生き返るぐらいだったら、最初から死ななきゃいい。
死ぬような目にあっても、うちのキャラクターは死なないんです。
漫画の世界だと、昔から、壁にぶつかって人型の穴が開いてたって死なないじゃないですか。
そんな恐ろしい目にあったら、ふつう死にます(笑)。
でも、そういうことが起こっても死なないのが、漫画のキャラクターの良さというか強みなんで。
それと、死んで生き返るというのは、作者の意図が感じられて子供の頃から嫌だったんです。
「人気があるから復活させたのかな?」と、子供ながらに疑ったり…。
昔おかしいと思っていたことはやらないし、こうして欲しかったということはやる。
10年連載を続けていても、判断基準は同じ。
15歳ぐらいの、読者時代の自分が納得するかどうかに尽きますね!
──「ワンピース」を読むと登場人物たちの泣き顔がとても心に残ります。
昨今、「泣ける」といわれている作品の多くは基本的に人が死ぬことで涙を流しますが、「ワンピース」の涙の質は全然違うと思うんです。
人が死んだから泣くってね、感動じゃないんじゃないかと思うんですよ。
お葬式に行ったら皆泣くでしょう。
その涙と同じなんですよね。漫画の中でキャラクターが死ねば、悲しくて涙が出るんです。
僕もそういう涙を描かないわけではないけれども、それを描くときは「この涙は悲しみの涙だ」と、涙の種類を区別してます。
「感動の涙」は、それとは別なんです。
僕の漫画のキャラクターは、耐える時間がものすごく長いんです。
涙に盛り込んだドラマの数も他とは違うと思っているんですけど、とにかく、辛いことがあったぐらいではまず泣かない。
もっともっと辛いことがあってもまだ泣かない。
耐えて、耐えて、そして優しい人が現れた時にやっと出てくる涙っていうのはもうしょうがない!
しょうがないと僕が思えた時にやっと泣く涙が「感動の涙」なんです。
その時は僕も泣きながら描いてます(笑)。
自分が泣けない話では人は泣かないと思っているし、嘘でキャラクターに涙を流させるようなことはしたくない。
読者に失礼だと思うんです。
ただ、描きながら泣いたからといって、僕の感情の全部が伝わるとは思ってません。
漫画ってだいたい、10伝えようとして1しか伝わらない。
だったら、10伝えるためには100のものを描かなきゃならない。
それぐらい過剰な気持ちで描いています。
──印象的な泣き顔のシーンがあるからこそ、いつも笑顔を絶やさないルフィのキャラクターが際立ちますよね。
尾田さんにとってルフィはどんなイメージなんですか?
漫画のキャラクターの責任とまでは言わないですけども、感情が豊かであるべきだと思っています。
でも、ある時期からクールなことがいいとされ始めて、クールと無表情を履き違えたようなキャラクターが漫画の世界にどっと増えていった。
例えばルフィの、目が弧を描くだけの単純な、スマイルマークみたいな笑顔。
自分で描いて新鮮に感じたぐらい、あの笑顔は当時、周りに全くなかったんです。
「海賊王におれはなる!!!」と、自分の野望を叫ぶってキャラクターも当時いませんでした。
ある時期は、作家さんたちが全員、夢を叫ぶキャラクターを恥ずかしがって描かなかったんです。
だからこそ生まれたキャラクターだと思うんですね、ルフィは。
僕は連載を始める時、新しいキャラクターを生み出したつもりは全然なくて、昔いたキャラクターを現代に呼び戻すつもりで描いたんです。
昔の漫画のキャラクターって、夢も語ったし、大人が読んだら恥ずかしいようなことも平気で言っていた。
本当はそれぐらいやらないと子供には伝わらないと思うんです。
少年漫画は子供に向けて描くものだから、子供にも意味が通じるようにものごとははっきり言わなきゃならないし、感情もオーバーに表現しなければ伝わらない。
……別に社会問題に斬り込むつもりはないですけど、最近、無表情な人が増えてきてるようにも思うんです。
そんな状況だからこそ、僕は漫画の中で、泣く時も笑う時も、やりすぎじゃないかっていうぐらい大げさにやりたい。
それがこの漫画のテーマでもあると思うし、それが受け入れられたからこそ10年続けられたと思っています
──大人たちは日々感情を内に溜め込んで生きてますから、作品を読みながら感情を引き出される経験はとても貴重な気がします。
では最後に…連載20周年も迎えられそうですか?
はっきり言って、分かりません(笑)。
僕はほんと、予定通りにいかないんですよ。
「このシリーズは30話で終わる」と思って描き出すと、だいたい3倍の90話かかる(笑)。
描きたいことはまだまだたくさんありますし、次のシリーズで何を描くかさえ決まってなかったりするので…。
実は、ずっと先の話のほうが一番明確なんですよ。
最終章、最終回のイメージは連載を始めた頃からはっきりあって、そこを目指して描いているんです
──じゃあ、完結してから全巻まとめて読むとか、そんなことを考えていたら埒があかないですね。
「今すぐ乗り込め!」と。
もう、どっからでも乗り込んで頂ければと(笑)。
僕は少年漫画家なので、常に「少年」に向けて漫画を描いてますけど、少年が分かるものは、大人でも女の人でも皆が分かると思うんです。
敵がいたら勝ちたいし、いいヤツがいたら友達になりたい、新しいものと出会ってワクワクしたいというのは、人間のもっとも原始的な感情。
歳をとったり、社会に出たりして進化するずっと前は、誰もが少年だったんだと思う。
だからこそ、僕がスタイルを変える必要は全くなくて、これからも少年に向けて描き続けます。
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