2012年11月7日に発売された
「シアターカルチャーマガジンT.」という雑誌に掲載された尾田先生のインタビューをまとめ。
タイミングとしては、映画
「FILM Z」が公開された時期。
「尾田栄一郎が語る 映画ONE PIECEの表現者たち」映画「ONE PIECE FILM Z」試写会後の尾田先生へのインタビューは「30P」の大特集!
この雑誌「シアターカルチャーマガジンT.」は書店未発売の為、かなり貴重なインタビュー。
では早速。
──ゼロ号試写が終わった直後のインタビューとなりますが、今とてもテンションがあがっています。
興奮していただけましたか?
──映画のルックが非常にスタイリッシュで、オープニングタイトルもこれまで以上にクールでした。
今回はオープニングタイトルだけの監督がいますからね。
──まずは尾田栄一郎さんが今回の「OPF Z」で総合プロデューサーとして再び映画にかかわることになった経緯を聞きたいと思います。
09年の劇場版アニメーション「SW」で尾田さんは製作総指揮に就かれたのですが、その件について田中真弓さんに取材をした時、尾田さんが劇場版アニメにガッチリかかわることで、尾田さんと東映アニメーションのスタッフのどちらもが従来のやり方よりずっと作業が増えたであろうけど、互いのよさがカチッと噛み合って、それが作品の強さにつながったとおっしゃっていたんです。
中に食い込んでみてわかったことですけど、会社というのは部署によっていろいろと気を遣い合う関係性があるんですね。
そこにアニメ製作について全くなにも知らないド素人が突然、現場に現れてですね、「いいものを作れ!」ということだけを叫んで、わがままばっかり言い始めた。
すると、それまで遠慮し合っていた部署同士が、尾田栄一郎という、僕という敵を相手にですね、「もう、あの人がああ言ってるんで、どうにかしてくださいよ」とある意味、強烈につながっていったというか(笑)。
それまでは無茶なことだと社内で通らなかったことが可能になっていった。
それが「SW」だったんです。
──例えばどういうことを突き通したのでしょうか?
劇場版アニメーションはそれまで1年に一度の周期で新作を発表してきましたけれど、そのサイクルでは製作期間が本当に短すぎる。
ならば、1年に一度作らなくてもいいんじゃないか。
そう言える人がいなかった。
「SW」のあと、いっきに長編を作る製作期間が伸びたんです。
そういう意味では、製作総指揮になったことで少しお役に立てたかなという気はしています。
『SW』の製作期間中は東映アニメーションのスタッフ全員に嫌われたかもしれないけど、完成したらみんな喜んでくれたし、これでいいんじゃないかなと思っているんです
──そもそも、原作者である尾田さんに劇場版にかかわってほしいという東映アニメーションからの要望といいますか、そういう空気のようなものは何年前から感じたいらっしゃったんですか?
いや、全然。
──そういう空気はなかったと?
かかわる気はなかったし、かかわってくるとも思っていなかったんじゃないですか。
でもね、ただ一人だけ画策していた男がいた(笑)。
00年公開の第一作「ONE PIECE」の初代プロデューサーで、清水慎治さんという人がいるんですけど、あの人は僕を劇場版に引きずり込むために何年間もいろんな作戦を水面下で進めていたんです。
で、ついに「SW」でアニメ作りの場に引きずり出されてしまったんですけど、それで懲りず、今回もまた引きずられて…。
前作のローションがまだあちこちに残っていたんですね、つい滑ってしまった(笑)
──でも、尾田さんがかかわるという本気が観客にも伝わって、それは従来のファンの軸である子供たちだけでなく、その親も、そして小さい時に読んでいて大人となった人までもがそのローションに引きずられて、大ヒットになりました。
「SW」を巡る社会的現象について田中真弓さんは「怖い」とおっしゃっていましたが、尾田さん自身はどう感じられたのでしょうか?
僕も怖いですよ。
僕も真弓さんもある意味、中心にいる人間だから、これからどうしたらいいんだろう、と。
真弓さんにも生まれたと思うけど、僕にだって、背負わなきゃいけないのかなという考えは生まれますよね。
昔からブームというものに対しては、本当に起きちゃ嫌だって思っていましたからね。
「SW」の大ヒットを受け、もしかしたらこれがブームというものじゃないかなという怖さがありました
──その怖さが払拭されたのはいつですか?
まだ払拭してないですよ。
怪物ですね、これは。
──そもそも、原作と並行して公開されていた劇場版シリーズは、尾田さんにとってどういうスタンスのものだったんでしょうか?
アニメーションに関しては、テレビも劇場版もすべてにおいて勝手にやってください、というスタンスだったんです。
ちょっとでも口を出し始めると、そこに対して全部、責任が生じてしまうから。
ひと言、「ここがいけないと思います」と発してしまうと、「じゃあ、どうしたらいいですか?」と必ず返ってくるじゃないですか。
「ここはね…」と言った途端にアニメーションの領域に踏み込むことになってしまうから、それまではニコニコと見ていました。
──その関係がちょうどよかったのでしょうか?
ええ、とてもいい関係だったと思います。
まあ、よっぽど「これはないだろう」という時だけは口を出しましたけど、基本はノータッチ。
アニメのことはアニメーターがやるのが当たり前、僕は漫画家だから漫画を描きますと。
アニメのスタッフとは仲が良くてしょっちゅう遊びに行っていて、でも、僕はかかわりませんよという姿勢だったんです。
今もその楽しい関係は続いていますけどね。
──それをさらにまた、今回、がっぷり四つに組むことに。
それは「SW」がクオリティにおいても、興行成績としても成功したからです。
成功していなかったらバラバラになっていたかもしれない。
今後もやりたいとは思っていませんよ(笑)
──今回、非常に挑戦的だなと感じたのは、原作の世界観にぐっと踏み込んだことでした。
コミックではいま、”麦わらの一味”はグランドラインの後半の海となる新世界に突入し、そこで物語が繰り広げられている。
同時に劇場版でも「OPF Z」では新世界の物語が進行し、なおかつスクリーンで原作にはない新しいエピソードが披露される。
原作と劇場版の世界にリアルタイムで二重に行ったり来たりできる体験は、過去の劇場版ではなかった得がたい充実感です。
なるほど。
それは鈴木おさむさんのわがままのおかげですよ。
通常だったら、読者が読みたいと思っても僕がまだ見せないと思いますよね。
でも、鈴木さんは見たいという。
本業が放送作家で、悪い意味ではなく、人をひっかけるのがうまいんでしょうね(笑)。
人を動かす設定をうまく作っちゃうというか、いままでの脚本家とは違うアプローチでした
──やっぱり、新世界の物語をやりたいんだ、と鈴木さんから出てきたときは、それはちょっと嫌だなという感触だったんですか?
嫌も何も次の舞台として新世界には行かなくてはならない。
だってもう原作が行っちゃってるんだから。
そこは行くしかないんだけど、ただ、鈴木さんからそういう話が出たときは、原作のほうではまだ魚人島編の頭ぐらいを描いている時で、その時点で青キジを出したいと言われても、鈴木さんの中ではまさか青キジが過去のエピソードからは窺い知れない大きな変化が起きているとは思っていないんですよ。
でも、僕の中では既に青キジはこの先、大変貌を遂げるという設定があった。
だから、「鈴木さんは青キジを新作で出したいと言いますけど、彼は新世界ではこうなっていますよ」とどんどん新しい話を披露しなくちゃならなくて。
当然、そこは読者の興味のある部分でもあり、僕が隠しておきたい部分でもある。
そこを鈴木さんの手腕と柴田宏明プロデューサーや長峯達也監督、皆さんの巧みな誘導によって引き出されてしまったなという感じですね。
──鈴木さんはOPの世界観を非常に愛していらっしゃるから、自分の足跡を原作のストーリーに絡めたいという夢もあったのではないでしょうか。
インタビューの際、「いつか僕の作り出したゼットが原作の中でどこかで名前だけでもいいから登場したら、そんな幸せはありません」とおっしゃっていましたから。
夢か…。
チャンスがあればそれは考えたいですね。
映画でこういうキャラクターがいましたよ、とその存在を知られることによって、原作だけを読んでいるファンが分からなくなることは避けたいので。
映画だけの存在ってあまりよくないので、どこかで違和感のないように、話に溶けこませないといけないですね
(横から週刊少年ジャンプ編集部の担当編集者・服部から「まあ、分からないですけど」とコメント)
クギを刺してるの?(笑)
──総合プロデューサー業は、傍目から見ても「SW」に比べ、より緻密に、より膨大な作業にと増えたと感じられますが、いかがでしたか?
それは自分でもまだ分からないんです。
自分で作ったほうがよかったのか、人の作ったものを直した方がよかったのか。
モノを作ることにおいて、決まり事ってないじゃないですか。
これでうまくいったから、次も同じ方法で良い方向に行くかというと、そうではなかったりして。
往々にして、結果としてうまくいったということが多い。
ただ、なぜ僕が今回、総合プロデューサーという立場で劇場版に携わったかというと、絵コンテに口を挟める権利が欲しいから。それで付けてもらった肩書きなんです
──絵コンテに口を挟む。
実写映画における最終編集権のようなものでしょうか?
あるイベントで「OPF Z」の総合プロデューサーは尾田栄一郎とアナウンスされた時、観客からどっと歓声が起きまして、その時、正直、ぞっとしました。
ああ、何か背負わされたと思って。
いろんな責任も感じましたし、実際、いろいろとやることになりました。
でも、僕がこの仕事を引き受けた最大の理由はルフィをはじめとする登場人物を守ることだったんです。
──鈴木さんや長峯監督に話をうかがった際、脚本の台詞に対して「これはルフィは言いません」と尾田さんにはっきり言われたことが何度もあったと聞きました。
そういう「これはルフィじゃない」「これはサンジじゃない」といった微調整は尾田さんしかできないということですね。
そうですね。
ルフィだけじゃなくゾロもそうだけど、彼らは普段から言葉は少ない。
でも僕以外の人が彼らを書くと、しゃべりすぎちゃうことはよくあることで、それを止めるために総合プロデューサーになったというのもあります。
具体的な作業としては、それは絵コンテのところで止めなくてはならない。
脚本でどれだけ直しても、長峯さんはそれを絵コンテで変えることができる。
だからこそ、絵コンテの段階で長峯さんに対して、「これをやるとルフィじゃない」というやり取りは何百回もやりましたし、そこでちゃんと補佐できる立場が欲しかったんです。
じゃないと僕はこの作品に対して責任が持てないと。
──ということは、全コンテを見て、確認したということですよね?
そうなんですよ(笑)
──それは本当に膨大な作業になります。
なりましたね。
アニメの絵コンテの見方って難しくて、できあがった端からどんどん映画の制作が始まっちゃうんです。
つまり一度確認したら、もう直せないんです。
だからこそ、絵コンテの段階で直さなきゃいけない。
そこが最前線の防波堤となる。
なおかつ絵コンテは一気に上がってくる状況ではなくて、できた端から断片的に上がってくるわけです。
ここで判断を間違えると、後戻りできなくなる。
そういう作り方はしたことがなかったから、普段使っている脳みそとは別の部分を使った気がします。
──長峯監督と最も激しくやり取りされた部分はどこだったんでしょうか?
長峯さんはゼットを愛していましたね。
僕はそういう長峯さんに対して、「いいですか、この物語においてはルフィが主人公ですよ」って言い続けていた(笑)。
そういう意味で、この映画は僕と長峯さんとの対決が描かれた映画でもありますね。
長峯さんご本人は「ちゃんと分かってますよ」と言うんだけれど、コレはどう見てもゼットのほうがカッコイイじゃないか、という場面が何度かあって、そこは全面的に戦いましたね(笑)
──ゼットはこれまでの敵キャラと成り立ちが全然違っていて、ギャグは言いませんしね。
また背負っている過去が凄絶で、泣きそうになった瞬間が何度かありました。
そうなんですよ。
最初から所々でギャグを入れてくれと言ったんですけど。
冒頭、ゼットが麦わらの一味に海から引き揚げられて助けられた時も、ここでゼットに服を畳ませて下さいと言ったんですけど、却下されました。
──却下されたんですか?
うん、やってくれなかったですねェ(笑)
──そういう細かいやり取りはかなりの回数に及びました?
そうですね。
聞き入れられたところと、突っぱねられたところとあります。
それでも突っぱねられちゃ困るところは、もっと食い下がってみたりして。
──突っぱねられて最も困るところはどこだったんですか?
ルフィです。
ルフィを守りたかったんです。
ネタバレになるからこれ以上は言いませんが、長峯さんは大人の戦いを考えていたんですけど、僕は少年漫画家として、少年の気持ちを盾にした戦い方を提示しなくてはならなかった。
──そのルフィですが、これまではルフィをどこか母親目線で見ていたのですが、今回はサンジやゾロと同じくらい恋人目線で見られるようなカッコ良さになっていて、そこが一番の驚きでした。
映画には直接出て来ませんが、マリンフォードでの頂上戦争で白ひげとエースというルフィにとってはとても大切で、重要なキャラクターが亡くなり、ルフィ自身も胸に大きな傷を負うことになる。体力的にも、精神的にも2年間のリハビリ期間を経る必要がありましたし、その過酷な体験を乗り越えたことで、彼の男っぷりがあがっている印象を受けました。
うしろ姿がカッコイイでしょ!
仲間たち皆が彼を立ててというシチュエーションが多かったから、かっこ良く見えたんだと思いますけどね。
──さらに今回、画期的に感じたのは、これまでの麦わらの一味の楽しい冒険を越えて、NEO海軍が出てきたことによって、海賊は悪であるという視点が濃厚に劇場版に入り込んできたことでした。
鈴木さんは、原作でもシビアなところですが、ぜひ劇場版でも言及したいと。
そこは原作の漫画でも最初から一貫して主張していますが、ルフィは決してヒーローじゃない。
海賊を描くからには、絶対に正義は語らない。
これは絶対の決め事だったので、これだけはアニメでもあってもブレてはいけない。
──その意味でNEO海軍というのは画期的な設定ですね。
特にNEO海軍を率いるゼットは先程も話に挙がりましたが、これまでの敵役とは根本的に性格が違う。
受け取り方はそれぞれですけど、僕の中ではもうゼットって海賊なんだよ、という答えを出したんです。
それは僕の中だけでかもしれませんけど。これ以上言ったらやはりネタバレになるけど、彼はルフィと同じで、同じように夢を見て、その夢を最後まで貫く。
ルフィは若いし、まだ成し遂げていないけれど、彼らは同類だからこそ、あのエンディングがあるんです。
あそこがしっかりしていないと単に人を泣かせたいチャちいドラマになってしまう。
──具体的にはゼットという男をどういう絵にしていったんでしょうか?
今回僕が制作に入ったのは途中からなんだけど、今から自分の納得する形にするのはどうしたらいいんだろうと、まず皆のイメージを統一するためにキャラクターの絵を描くことでした。
そこから先手、先手を打って動いて、キャラクターを統一するイメージとして「ゼットってこういう人だよね、分かってるよね」と描いた。
そこの意識は高かったですよね。
──ゼットは非常にメカニックな腕を持っていますが、あのイメージもすぐに浮かんできたことですか?
脚本が始まってわずか三行目からして「右手に巨大なスマッシャーを装備している」と説明されていて、それを読んで、「メカ、そんなに得意じゃないんだけどなあ」とデザインをいろいろ考えて、作り直して。
まあ、これなら少年たちはトキめくかなあというデザインにたどり着いたんですが。
──その右腕が映画の冒頭からすごくフォーカスされていて、音といい、重量感といい、かなり痺れるものでした。
あれはすごかったですね!でも、あんな面倒くさいモノを原作では描きたくないなと思いました(笑)。
でも、それじゃダメですよね。
以前、鳥山明先生に自画像の鳥山明(ロボット)を描いてくださいとお願いしたら、目の前でスラスラと描いてくださったことがあって、僕もそういう風にならないと。
練習しないといけないなあ。
──魅せるという点では、先ほど、柴田プロデューサーと話をしている時、ナミの初登場がバストのどアップから入っていって、それがたわわに揺れたりして、それは長峯監督の変態具合と、総作画監督の佐藤雅将さんの変態具体と、尾田さんの変態具合とが同じイメージを共有してがっっちりと噛み合った成果ではないかと(笑)
何でその変態の中に僕が入っているんだ(笑)。
まあ、色気は大事ですよ、色気はエンタテイメントですから。
ただそこに寄り過ぎると、それを期待させるだけの作品になっちゃって、逆にファンから敬遠されちゃうから、ほどほどのバランスが必要ですけどね。
──オープニングのナミのセクシーショットにももう大感激でした。
佐藤さんの描くナミはかわいいんですよ、本当に。
──その佐藤さんですが、「SW」に次いで今回も作画監督に指名された理由は何ですか?
あれ?
僕ではなく、誰か他の人が僕を呼び込むために佐藤さんを作画監督にしたんじゃ…?
(と、ちらっと柴田プロデューサーを見る。『いえいえ、そんな流れはありませんよ』と柴田プロデューサー)
──尾田さんは、佐藤さんに大きな信頼を置いているように見えますが。
「SW」でのファンの喜びようを見ましたからね。
それまでの作画監督の方々ももちろん上手なのですが、「OP」をその人の世界のほうへ引き込んでうまいというか、ちょっと脚色されている部分があって、僕の絵そのものとはいえないかなというような、多少の違和感はやっぱりあったんです。
そこは原作とは別物として冷静に見ていたところでもあったのですが、佐藤さんの場合は徹底的に原作の絵のタッチに合わせることが出来る。
──本編の中で、ルフィの絵のタッチが時に原作の線となったり、アニメっぽくなったりと場面に応じて自在で興味深く観ていました。
佐藤さんが現れるまでは、原作ファンとアニメファンが分かれていたところがあったと思うんですよ。
そこをつないでくれたのが佐藤さんで、だから一気にファンが増えたのは当たり前のことですよね。
「SW」は原作ファンもアニメファンも、その両方が来てくれた。
でも、公の場で僕がほめすぎてはいけないんです。
下手したら嫉妬を買うくらい凄い人だから、佐藤さんは(笑)
──「OPF Z」には劇場版ならではの目に楽しい仕掛けがたくさんあって、例えば3パターンもの服を着替える理由も明快な理由がある。
そこは長峯監督としては大変な部分でもあるけど、手間暇かける意味があるとも話されていましたから。
クライマックスシーンの決戦服で、これはナミに着せるって勝手に作った設定もありましたからね。
あと劇中で「Armani Exchange」とコラボレーションしてデザイナーがデザインしてくれたものを着せているんですけど、そこは企画だからといっても、観客にはそう簡単に企画と気づいてほしくない。
ストーリーにちゃんと溶けこませないと、逆に異質なものとなってしまうので、そこは注意しました。
──サンジのデュポンのライターもさりげなくカッコよく出てきますけど、さすがのこれは子供たちは気づかないでしょうね。
実はデュポンのライターを僕がデザインさせてもらって、劇中のものは(約)23万円のタイプです。
高いのは147万円のもあるんですよ。
──劇中と同様、純金仕様もあるんですか?
(スタッフ)ありますよ。
スタッフは最もいい音が出るタイプのものを借りて参考にしたようですけど、誰がもらったんですか?
(柴田プロデューサー)もらってないです、ちゃんと返却しました
──ご自身でも最も印象に残った場面はどこですか?
いっぱいあります。
まずオープニングと、あとはアクション全般ですね。
クライマックスのサンジとゾロのアクションシーンのカメラワークはCGの効果もあってびっくりしました。
こんなにカッコ良くなるとは思わなかったな。
──クライマックスシーンのルフィなんて1925年制作の無声映画の傑作「雄呂血」での阪東妻三郎の大立ち回りを思い出し、血肉がたぎる思いがしました。
"阪妻"とは渋いところを突いてきますね(笑)。
確かにいいアクションシーンで、あれは長峯さんがやりたかったこと。
やり切ってもらったと思います。
原作ではどうやったって、アニメのアクションシーンにだけは敵わない。
そこは一観客として単純に面白かったですね。
──田中真弓さんは「OPF Z」を作る前は、数字としてのピークを迎えると、いつか落ちる時が来て、そのことを考えると怖いと思った時もあったけれど、今回、"新世界"の物語に青キジが出てきたり、黄猿やガープといった過去のエピソードに出てきた海軍関係の人々が再登場したことで、『OP』シリーズのあちこちに張られた伏線や謎がこの先、解き明かされて行く度に、さらにこの物語は面白くなると再確認できたことが非常によかったとおっしゃっていたことが印象的でした。
そこは安心してもらって、周囲の雑音は気にせず、いつもの真弓さんでいてくれたらいいですね。
確かに、この先どうなるんだろうという心配もあるでしょう。
でも、僕らは「もろとも」ですから。
これからも一緒にいますから、あんまり一人で抱え込まないでいい。
──このシリーズを支えている声優の方たちに関しての今回の感想はどういったものでしょうか?
いつもどおり、ありがとうございます、ですね。
もうね、あの人達には絶対の信頼を置いているんです。
あの人達=それぞれのキャラクターだと思っているから、あの人達が好きにやっていれば、多少変わったことをしても、それはそのキャラクターが変わったことをしたということと同意になる。
だから自由にやって頂いていると思うんです。
──長峯監督は声優さん達の技はもう文化だと言い切っていました。
そうですね。
まあ、本当に素で面白い人達ですよ。
期待を裏切らない。
例えば真弓さんは会った時に、ああ、この人がルフィだって本当に思える人ですからね。
だから安心してキャラクターを委ねられる。
何でそんなにしっかりした人たちが集まったのか分からないですけど、プロデューサーの計算もあるかもしれないです。
──さて、気が早いようですが、ここまでクオリティの高い作品を作ってしまったことで、劇場版「OP」シリーズの次回作に課された期待、ハードルはさらに高くなったと思います。
次はどう展開していく予定ですか?
それは次の監督が考えればいいことで、このタイミングでは気にしなくていいことですね。
ただ、今回の鈴木さんの脚本で、僕が一番「おっ」と思ったのはゼットのラストなんです。
一本の映画でその男を紹介して、その人生を描く。
それは僕なら書かないラストでした。
僕にとってあれば清々しい男の生きざまですし、そんなに嫌な気分になりませんでした。
──今日のゼロ号試写を終え、さらに公開日までギリギリの修正が重ねられると聞いていますが、それはプロデューサーとしての責務から来るものですか?
もちろんです、まだやります。
ついさっきゼロ号試写が終わったのに、もうすでに柴田プロデューサーを困らせることを言いました(笑)。
柴田さんは本当に大変で、この人は真に耐えているよ(笑)。
悪いなあとは思っているんですけど、心を鬼にしている。
だって、結果的にいいものができると、みんながみんな幸せだから。
そこを外すと、もう何の意味もないですからね。
中途半端に欲をかいて、できあがったものが中途半端だったら誰も報われない。
僕がやるからには、絶対にいいものを届けたいですから。
そこだけは曲げられません。
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